FM音源

「悪魔上伝説」「ラグランジュ・ポイント」をはじめとし、コナミ社の一部のカートリッジには、FM音源が内蔵されていました。

このチップの使用により、サウンド・デザイナー達は、初めて矩形波や三角波の制限に捕われず、なかば無尽蔵とも言える音色を合成することができるようになりました。

では、矩形波や三角波よりも表情豊かな、このFM音源とは、一体どのような仕組みで音色を合成していたのでしょうか?

FM音源の「FM」は、Frequency Modulation=周波数変調を意味します。これは、その名の示す通り、シンセサイザーの奏でる波形の周波数をリアルタイムで変化させる発音方式です。

一般的なFM方式の波形合成では、2つ以上のオシレータを用います。まず、一つ目は「キャリア」と言って、実際に音を出すオシレータ、それ以外は「モジュレータ」と呼ばれ、こちらはキャリアの周波数を変化させるのに使用されます。


ここで、簡単なFM回路を組んでみましょう。


まず、キャリアA(ここでは正弦波)単体を、400Hzで鳴らしてみます。

400Hz正弦波 (mp3/2kb)


次に、このキャリアに、2Hz のモジュレータBを繋ぎます。このモジュレータも正弦波を出力しており、この電圧の高い時はAの周波数を上げ、電圧の低い箇所ではAの周波数を下げています。

キャリア 400Hz、モジュレータ 2Hz (mp3/2kb)
現在、モジュレータBの周波数は2Hzに設定してありますので、元の正弦波が、毎秒2回の速さで音程(=周波数)を「変調」されているのがわかると思います。

↑モジュレータにより、周波数変調された正弦波

ここで注意していただきたいのは、モジュレータBはあくまでキャリアAの周波数に影響しているだけだということです。Bの周波数が可聴域に達しても、Bの音が直接聞こえることはありません。

ここまでで、キャリアとモジュレータ、2つの役割を理解していただけたことと思います。しかし、これではFM音源とは、これまで見てきたようなタダの「ビブラート回路」に終わってしまうのでしょうか? いやいや、FM音源の面白さは、これからモジュレータの周波数を上げていく時に初めて現れてきます。

では、ここでモジュレータの周波数を、2Hzから徐々に100Hz まで上げてみます。

モジュレータの周波数を上げる (mp3/24kb)

するとどうでしょう? ビブラートが次第に早くなったと思ったら、先程まで正弦波だった音が、一つの太い音になってしまいました。

正弦波に限らず、ある波形の周波数が高速で上下すると、モジュレータがある点を越えるのを境に、多数の倍音が発生します。この時、キャリアとモジュレータの周波数比が単純なほど、自然な倍音が多数発生します。上記の例ですと、キャリアA 400Hz、モジュレータB 100Hzですので、周波数比は4:1になりすね。 逆に、この比率が複雑になると、非整数倍音が発生し、より金属的な音になります。

あらゆる波形が、正弦波だけで再現できることは、以前にも軽く触れました。しかし、例えば正弦波だけを重ねてn個の倍音を持つ波形を合成する場合、その数だけオシレータが必要になります。

さすがにキャリアとモジュレータ1つずつだけでは作成できる音色も限られてしまいますが、少なくとも2つのオシレータをそのまま重ねるよりは、一つをキャリア、もう一方をモジュレータとして使用した方が、はるかに多数の音色を合成することが可能になります。

また、モジュレータの周波数をリアルタイムで変化させれば、発音中に音色が劇的に変化する、より表情豊かな音色を作ることもできます。

即席・比較実験

従来の矩形波・三角波を用いたフレーズ (mp3/30kb)
同じものを、FM音源で演奏したもの (mp3/32kb)
 

いずれコナミ社の許可が得られれば、FM音源を用いたゲームのサントラから、デモを掲載する予定です。